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中毒になりそうな独創性/「後に残してきた少女」ミュリエル・スパーク

そしてわたしは曖昧な不安のうちに、ある確信を探しあてていた。自分が背後にものすごく重要なものを忘れてきたという確信、あるいは事務所にやりかけの仕事を残してきたというそれを。

「後に残してきた少女」ミュリエル・スパーク

『短編小説日和―英国異色傑作選』西崎憲編訳 ちくま文庫

 

あとがきによると、この短編集は『英国短篇小説の愉しみ』全三巻から評判のよかった17作品と新訳3作品を合わせたアンソロジーとのこと。

収録作品はほとんどが20世紀以降の作品だが、その中で唯一19世紀に発表された作品がディケンズの短篇である。

各作品につけられた1ページにもわたる作者の説明が読みごたえがあって面白い。

主観的な意見もかなり入っているので、研究者が書く作家紹介とは一味違って興味深いと言える。

短篇集という名のとおり一つの作品が短いので、作品によっては感想もごく短めになると思います。

基本的には、このアンソロジーを初めて読んだ2013年時の感想ノートをベースに書いています。

内容にふれています。

「後に残してきた少女」ミュリエル・スパーク

原題は”The Girl I Left Behind Me”。初出は『ノースマン』誌(1958年1月号)。

ミュリエル・スパーク(1918-2006)の名は知っていたが、本作品で彼女の作品を初めて読んだように思う。

仕事の後も語り手の頭の中を回り続けるのは、勤め先の上司マーク・レターが口ずさむ『後に残してきた少女』、または『そっとそっと鍵をまわして』のフレーズ。

読者に知らされるのは、語り手が大病から復帰したばかりの22歳の女性であり、勤め先にうんざりしていること、そして会社からの帰宅途中に何か重要なものを忘れてきてしまったという感覚に苛まれていること。

プロット自体は予想がつく展開ともいえる。だが、嫌いじゃない。

それよりも衝撃を受けたのは結末の語り手の行動である。

死体を見て恐怖するより安堵するというのは、語り手にとって死よりも無になってしまう方が恐ろしいということなのだろうか。

なぜ、このような結末になったのだろうか。

しばし呆然としたあと、読み返したが、どのように、は想像がつくとしても、なぜ、かはわからなかった。

彼女が患っていた病気は何を意味していたのだろうか。

最初の収録作品にして、非常に独創的かつ刺激的で、一気に英国短篇小説の世界に引きずり込まれた良作。

 

ミュリエル・スパークの短編を調べてみたら、2013年にミュリエル・スパークの傑作短編集が日本で出版されているようです。

こちらも気になる。

久しぶりにこの短編を読んで彼女の他の作品も読みたくなった。

長編も面白そう。