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派手さはないが原作に忠実なドラマ/マイケル・ホーダーン主演BBCドラマ『クリスマス・キャロル』

映画Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~』はただいま絶賛公開中🎄

まだ30台前半のディケンズが、悩みもがきながら『クリスマス・キャロル』を完成させるまでの誕生秘話を描いた物語。おすすめです!

さて、色々な『クリスマス・キャロル』の感想を書くシリーズ、今日で三回目です。

①一作目はレジナルド・オーウェン版『クリスマス・キャロル』。

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②二作目はアルバート・フィニー主演『クリスマス・キャロル』(原題は”Scrooge”)。

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そして、三作目の今回扱う作品は1977年制作のイギリス、BBCのテレビドラマ版『クリスマス・キャロル』です。

クリスマス・キャロル BBCドラマシリーズ [DVD]

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今までは映画版だったので今回が初のドラマ版。時間は60分とかなりタイト。

そして、短い時間ながらも非常に原作に忠実な作り。これもBBCドラマ版ならではかもしれません。

パッケージにあるあらすじはこちら。

ロンドンの商業地域で金貸しを業としているエベネザー・スクルージは人情のかけらもない男。そんな町中の嫌われ者の彼が、クリスマス・イヴの夜に奇妙な夢を見る。死んでしまった以前の共同経営者マーレイの幽霊が現れて、スクルージの過去・現在・未来の姿を精霊の力をかりて見せつける。夢から醒めたスクルージは、いまの生き方を反省し、クリスマスの日から人情ゆたかな善人に生まれかわるのだった。

映画版を二つ観た後だからか、予算の違いが明白にわかる感じで、ところどころ背景が絵だったりする(原作の挿絵を思い浮かべるので必ずしも安っぽくはない)。スクルージの家はかなり完成度が高く雰囲気もあってこれまでで一番恐ろしい感じ。これはセット?それとも実際の家を使って撮影しているのだろうか。

主演のスクルージ役はマイケル・ホーダーン。ホーダーンは1911年生まれなので、公開時66歳と、これまでのスクルージ俳優に比べて役柄に近い年齢。それだけに、誇張された姿というよりも、リアルなスクルージを自然に演じている。

甥のフレッド役は1944年生まれのポール・コプリー。『ダウントン・アビー』にも出演している。この作品のフレッドは陽気で親切、気さくな気のいいお兄ちゃん、という感じ。スクルージ伯父さんにすげなくされても何度でもめげずにアタックするコプリー演じるフレッドの明るさに、説得力がある。

スクルージの事務員ボブ・クラチット役はウェールズ出身のクライヴ・メリソン。BBCラジオでシャーロック・ホームズを演じていたというメリソン。1945年生まれなので、公開時32歳。

メリソンの演じるクラチットはこれまでの三作で一番悲劇的に見える。影を背負い、家族のために身を削って働く事務員の悲哀が感じられる。こちらのクラチットも若く男前だ。

画面に映るスクルージの事務所は暗く、こんななか長時間仕事をしていたら目も悪くなるし、体も壊すだろうと、クラチットだけでなく、当時のヴィクトリア朝の事務員の悲哀を思わず想像してしまった。

雪が降る外よりも寒いスクルージの事務所という原作通りの台詞も説得力を持つ、暗く寂しい事務所。ここで働いたら身体だけでなく精神も病みそうだ。

クリスマスに貧しい者たちへの寄付を求める紳士に対して、スクルージは監獄や救貧院に入れておけばいいと返す。死んでも救貧院に行きたくない者もいると反論する紳士に対してスクルージは、

『死なせればいいさ 余計な人口が減る』

と言い放つ。

この、貧しさを他人事として、また自己責任として押し付ける考え方はディケンズが嫌悪した考え方であり、後にスクルージが自分の放った言葉に苦しめられる、作品の根幹に関わる問題でもある。

しかし、これは物語の中のスクルージだけが言うセリフではなく、現代でも耳にする言説ではないだろうか。175年前に書かれた『クリスマス・キャロル』が現代で何度も舞台や映画やドラマにリメイクされ続けるのも、この作品が普遍的なテーマを扱っているからだろう。

特に世間が排他的なムードになった時こそ、この作品が求められる。

映画Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~』が2017年に公開されたのもそのような社会の動きと皆無とは言えない……かもしれない。

ロンドンは当時から、あらゆる人を受け入れてきた大都市であったから。

ジェイコブ・マーレイの亡霊を演じるのは1912年生まれのジョン・ル・メスリエール。このマーレイは結構怖い。あらためてフィニー版のマーレイは一体何だったんだ。

多少端折りながらも原作通りに進んでいく展開だが、過去のクリスマスの亡霊はやはり若い美女だった…。絵的に美女が欲しいのかしら。演じるのはパトリシア・クイン。過去の幽霊が見せる若きスクルージの思い出、これまでの三作の中で唯一、別れた恋人の現在の幸せな様子が出てきた。子供がいない点を除けばほぼ原作通りの展開。このシーンは個人的にかなりスクルージには痛手だと思うので、がんがん入れてくるBBCは流石です。スクルージの妹ファン役はトレーシー・チャイルズ。かわいい。

現在のクリスマスの亡霊は、どの作品でも安定の原作寄り。そしてこのBBC版で初めて、「無知」を表す少年と「欠乏」を表す少女が登場した。やはりこの場面は個人的にはあってほしい。確かにあのハリウッド版で扱うには重すぎたのかもしれないが。

タイニー・ティム役はティモシー・チェイソン。出番は少ないが儚げな姿が印象的。これまでの三作品で一番おとなしく病弱な感じを受ける。スクルージじゃなくてもどうにかしてこの子を救ってあげたい、と思うだろう。

未来のクリスマスの亡霊も安定の原作通りのイメージ。そして、BBCはやはりやってくれる。遺体から遺品を盗まれる様子や、スクルージが死んだことで喜ぶ人々など、原作通りの暗い展開をスピーディーながらも見せてくれる。ティムが亡くなった未来での、クラチットの演技には涙がこぼれる。

そして、このドラマで最も印象的なのは、心を入れ替えたスクルージの場面が大変短いことである。といっても5分くらいはあるのだが、これがアメリカで作られたら恐らく改心したスクルージとそれによって喜ぶ人々の様子や、スクルージを慕う人々の様子なんかをこれでもかこれでもかと見せ大ハッピーエンディングに向けてひた走ることだろう。しかし、この作品は違う。スクルージに感謝する場面は特になく、とてもさりげなく終わる。大ハッピーエンディング展開を期待していると肩透かしを食らうが、想像力は刺激される。

派手さはないが、原作に忠実。そんな『クリスマス・キャロル』を求める人にはおすすめしたい一作である。

そして、この作品のDVD版の嬉しいところは、大御所のディケンズ研究者小池滋先生の解説がついていること。

作者ディケンズについてだけでなく、『クリスマス・キャロル』の時代背景や、同時代の作家についてなど、わかりやすくも濃い解説を読むことができ、作品をより深く読み説くことができる。

キャラクター解説ではスクルージの他に、フレッドとボブ・クラチットを扱っていて、これまでなんとなく三人を中心にブログ記事を書いていた私も勝手に報われる思いがした。スクルージの解説にある、「ひょっとするとディケンズは、夢とは人間の意識の下に隠れている欲求のあらわれだと知っていたのだろうか」や、フレッドの解説にある「子供の頃のスクルージの率直で明朗な性格をそのまま受け継いで青年になったような人物。当然のことながらスクルージは、この甥を嫌って遠ざける」など、なるほど、と思うような指摘がたくさんあって解説を読んでいるだけでも面白い。それを踏まえてもう一度作品を観ればなお面白い、という素晴らしい特典だ。

このDVD、唯一惜しいのは英語字幕がついていないこと。残念ながらBBCのディケンズ作品は英語字幕がついてないものが多い。

しかし、豊富な解説もついているので、作品をじっくり楽しみたい人にはおすすめ。

前回紹介したフィニー版とのテンションの差もすごいので見比べてみるのもまた面白いかもしれない。